健康保険がきく治療であれば、医療費が7割引になる、というのは以前のコラム“医療費の割引特典がある制度”で書きました。
では、入院や手術など、たくさんお金がかかりそうなときも同じ7割引の金額を払うのでしょうか?
これは、私の友人が入院したときの話です。
「入院することになったんだけど、病院の先生には聞きづらいことがあって・・・」
「どんなこと?」
「入院費がどのくらいかかるのか心配。保険はきくから3割負担ですむのはわかる。でも、 入院して手術するから、風邪を引いたときみたいに診察を受けて薬をもらって、飲んで治った、ってわけにはいかないでしょう?」
「風邪をひいたときよりもかかるお金は大きいよね」
「そうそう、それは想像つくの。それに、退院するときにお金をまとめて払うでしょう?お金おろしておかないと。いくらおろしておけばいい?30万円かな?50万円とか?」
「いつからいつまで入院するの?」
「8月30日から9月13日まで2週間」
「それ、9月1日からの入院にできない?手術はすぐにしないといけないのかな?」
「えっ?別に急ぐものでもないし、そんなに難しい手術でもないから日はずらすことはできるけど、どうして?」
「9月1日から15日なら、医療費は最高で9万円程度ですむはず」
「9万円?」
「個室を希望した場合や食事代は別ね」
「30万円や50万円じゃなくて9万円?」
「そう、それと、退院の時に払う金額を9万円にするために、あれ、請求しておいてね」
「あれ?」
「あれを請求しておくと、退院の時に払う金額は最高9万円になるからね」
これが、健康保険の制度、“高額療養費制度” を使ったことによる“医療費の割引特典” です。 高額療養費制度とは、1ヶ月の間にかかった医療費の支払が最大約9万円までおさえてくれる制度です。
その後、無事退院した友人から興奮した声で電話がありました。
「健康保険から医療費明細が届いたんだけど、 医療費が100万円って書いてある!健康保険を使っても7割引でしょ?30万円じゃないの?払ったの食事代とかあわせても10万円ちょっとよ! 」
「すごいでしょ、“高額療養費制度”」
「 すごいすごい!7割引どころじゃない、9割引! 」
“高額療養費制度”はすべての健康保険にあらかじめついている割引特典です。収入の金額や入っている健康保険によって負担額は9万円でないときもありますよ。
「あれ、請求してから入院してよかった。請求しておかないと、とりあえず30万円は払わないといけなかったのよね。教えてくれてありがとう!」
“高額療養費制度”は、本来は、まず7割引の医療費を支払い、その後9万円を超えた金額を払い戻してもらう流れになっているんです。例えば、医療費が100万円だとすれば、窓口では30万円を支払い、その後21万円が戻ってくるんですね。
私が友人に伝えた「入院前にあれ、請求しといてね」がポイントなんです。“あれ” というのは、“限度額適用認定証” という特別なカードです。“限度額適用認定証” を入院時に健康保険証と一緒に窓口に出しておくことで、退院のときには、30万円ではなく、9万円を払うだけですみます。ただし、特別なカードなので、次のことに注意してください。
注意点
- 限度額適用認定証は、必要なときに取り寄せが必要。健康保険証に書いてある保険者(全国健康保険協会など)に請求してください。
- 使える期限は発行から最大で1年間。有効期限を確かめましょう。
- 今日請求して明日来る、というものではないので、着替えの準備よりも先に請求しておくのがベストです。
最近は、入院が決まった時に病院から「“限度額適用認定証” を取り寄せておいてください」と言われることが多いようですよ。
「それに、入院日をずらしたのもよかったみたい。9月中に退院できたから、支払が10万円ちょっとですんだものね」
高額療養費制度は、“月の1日~末日” にかかった医療費の合計額が対象です。だから入院は月をまたがない方が払う金額は少なくなる可能性が高いのです。友人が8月から9月にかけて入院したと言ったとき、私が「9月から入院にできないか」と答えたのはこのためだったんですね。もしあなたが、月末に「入院してください」と言われて、待てるようなら月の最初から入院した方が・・・あっ、もちろん緊急ならお金より健康ですよ!ダメですよ、健康は何より優先しないと!
今日のポイント
- 入院が決まったら、着替えの準備より先に“限度額適用認定証”の請求をしましょう。
- 高額療養費制度の割引特典は月の1日~末日までにかかった医療費が対象なので、入院は月をまたがない方が割引が大きい可能性があります。